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「 【09年上半期・絶対に観て頂きたい邦画】 」
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【ディア・ドクター】(監督:西川美和/出演:笑福亭鶴瓶、瑛太)

・初日、ヱヴァンゲリヲンと梯子して観たのですが、ヱヴァンゲリヲンに関しては、既に私なんかより思い入れのあるファンの方というのは沢山いらっしゃる訳で、私なんかが「じゃあ序に続いて、本作の見所を!」と息巻いても仕方がありません。語った所で、それはこれから観に行く人のテンションを殺いでしまうというもの。しかし、前作以上に普遍的なテーマに富み、さらに挑戦といえる奇抜な演出(ことごとく、映画の主題を強調している)が施され、さらにアニメ版のファンの方の期待を軽やかに裏切るであろう心地良さは、きっとたまらないであろうと思います。素晴らしい娯楽作品、には違いないので、それはそれで置いといて。私が本当にお勧めしたいのは、今年上半期現在、51本観た全邦画、「人間の本質」を本当に巧みに描いた秀作「ディア・ドクター」なのです。

・ストーリーの舞台は山間の小さな、しかし長閑で美しい農村。その村のたった一人の医者、伊野先生。無医村と呼ばれていた村に赴任してきた伊野先生は、村人から神様や仏様以上に慕われる唯一神の存在で、厚く慕われておりました。しかし、ある日、伊野先生は思い立ったように診療所から出かけていったきり、とうとう戻っては来ませんでした。失踪です。映画は、この失踪した日の晩から始まり、事件を担当する刑事たちが、先生の周りを取り囲んでいた人々から聞き取り調査をしている場面を挟みながら、失踪以前のエピソードを回想していく展開です。一見、ミステリーサスペンスの様相を呈してもおかしくない構成ですが、本題は謎解きではないのです。その謎解きの要素は早々に、解決してしまうのです(無医村、たった一人の医者、という設定だけを考えてみても、粗方のカラクリは読めてしまいます)。物語の主幹は漠然としてしまいますが、「人間の本質」なのです。ただ、ただ、人として……。何が出来るのか。“医者が誰一人、本当に存在しない無医村”に携わることになった伊野先生。きっと、どの医者よりも尊敬に値するのでしょう。町医者の息子で、ボンボン育ちの研修医の青年は、当初怪訝していたのにも関わらず、「真剣に村人と向き合い、問診する」伊野先生の姿にすっかり感心し、「ボクの父は結局、利益しか求めない人間なんだ! 先生のような、先生ではない!」と訴える。その通りなのです。“利益を求めず、ただ黙々と、自分を待つ人々の為に”。さらに伊野先生扮する、つるべえ師匠の人柄も相まって、村人との触れ合いもユーモアがあります。温かみがあります。時々、万歳三唱されるほど人望の厚い“神様”なのです。さらにさらに、大きな総合病院の救急治療でも遭遇することがあまり無い、重症患者も、余貴美子演じる看護婦と共に適切な処置で危機を乗り越えます。総合病院の先生からも「あなたがいれば、村は安泰ですね」と褒められるのです。伊野先生は、村人達の名医なのです。

 


  ただ……、この伊野先生、ちょっと、事情が違うようです。

 


・伊野先生の出す胃薬を飲まない、八千草薫演じる農家のお婆ちゃんが物語に絡み出してから、展開が矢継ぎ早に変わっていきます。たった一つの契りから生じる歪みが、サスペンスを軽く飛び越えていきます。お婆ちゃんとの契りから繋がる、伊野先生の深奥にあった筈の真意と重なり、それが彼を突然の失踪へと誘うのです。ひいては、「すべて、人間のあるべき本質、そして良心」が浮かび上がってくるのです。例えば、“成り行き”という仕方の無かった意味を表す言葉を、意図知れず凌駕する力が、人間にあるのです。それを象徴するシーンがあります。詳しく説明しても仕方が無いのですが、回想シーンとの間に挟まれる、伊野先生失踪後の刑事の聞き取り調査の一場面。香川照之扮する薬問屋が、刑事の挑発に対して行う言動に注目して欲しいのです。観てくださるならば。そこに「ディア・ドクター」という映画に加えられている重要なエッセンスがあるのです。やや展開をネタバレしてしまい、すいません。だけれど、無医村だったからこその、農村が育んでしまった「ひとつの本物という形」、その悲しくも胸厚くなる、濃厚な人間ドラマ、そしてある種の医療問題をことごとく浮き彫りにした社会ドラマを、どうか堪能して欲しいのです。


・「映画」というのは人それぞれ好みは必ずあります。でも好みがあっても、好きだとか嫌いだとかあっても「いや、それでもボクは皆に観て欲しい映画があるんだ!」という作品が年に数回あるのですが、この西川美和監督の綿密な取材に基づいて構築された本作は、まさに「押し売りしてでも観て欲しい映画」なのです! 予告編を観て納得されても、結局は見せかけの、上辺だけの謎解きを垣間見ただけ。是非、劇場までお願いします。全国50スクリーンと少なめです。だけど、遠く足を運ぶ価値が、愛しくなるような人間の輝きが、この邦画にはあると信じて止まないのです。
 

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