<日本映画・上半期ベスト10> 全51本
第1位:「ディア・ドクター」
(監督:西川美和/出演:笑福亭鶴瓶、瑛太)
第2位:「劔岳 点の記」
(監督:木村大作/出演:浅野忠信、香川照之)
第3位:「愛のむきだし」
(監督:園子園/出演:西島隆弘、満島ひかり)
第4位:「ポチの告白」
(監督:高橋玄/出演:菅田俊、野村宏伸)
第5位:「フィッシュストーリー」
(監督:中村義洋/出演:伊藤敦史、高良健吾)
第6位:「ジェネラル・ルージュの凱旋」
(監督:中村義洋/出演:阿部寛、竹内結子)
第7位:「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」
(総監督:庵野秀明/声の出演:緒方恵美、林原めぐみ)
第8位:「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」
(監督:今石洋之/声の出演:柿原徹也、小西克幸)
第9位:「交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい」
(総監督:京田知己/声の出演:三瓶由布子、名塚佳織)
第10位:「デメキング DEMEKING」
(監督:寺内康太郎/出演:なだぎ武、喜安浩平)
【日本映画・総括】
・捉え方としては二通りあると思うのです。まず一つとして、実写邦画の不作ぶりが個人的に挙げられます。安易な娯楽表現でも観客に受けるだろう、という気持ちが自然と篭った大作、インディーズ問わずしてB級映画が煩雑としてしまっているのではないか。と、一抹の不安と不満が下半期に繋がってしまったと感じております。コメディならただひたすら荒唐無稽なだけ。また、題材が良くても後は感性にまかせっきりで、味の悪い作品に仕上がるだけ、と「邦画豊作」と言われた去年に比べるとその質度の低下は甚だ、著しいものであります。そして二つ目として、実写の不作の煽りでアニメーション映画を3本も、ベスト10に組み込んでしまったこと。例年のベスト10、加えて上半期のとなると、異例の事態。しかし、敢えて前向きな観方をすれば「正しい日本映画」としてのバランスなのかもしれません。たかだか、一般素人のベスト10。無意識のうちにアニメーション映画に重きが傾いただけの結果。つまり、ジャパニメーションと実写が同じ芝生になりつつあるだけかもしれませんね。やっと落ち着いてみれば、なんだ上位5本はなんやかんやで実写邦画じゃないかい。私からは「おくりびと」以上に価値のある作品なのです。娯楽映画を極楽に昇華させた第5位、そんじょそこらの勧善懲悪の刑事ドラマとは一線を画する骨太社会派の第4位、4時間の尺にタップリ詰め込めんだあらゆる要素が心地良く暴走する第3位、「大作ならぬ大作(だいさく)映画」の到来を予感させる唯一無二の神傑作の第2位、そして人間の根底に潜むものを鎮座させ、観客に問い質す文句なしの第1位。改めて、感慨深く考察すれば、ああ邦画の力は全部全部丸々ひっくるめて、「やっぱり凄い!」と唸るしかないのかしれませんね。凄いのだから、逆に意地悪くなってしまうだけなんです、きっと。
<外国映画・ベスト10> 全53本
第1位:「レスラー」
(監督:ダーレン・アロノフスキー/出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ)
第2位:「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
(監督:デヴィッド・フィンチャー/出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット)
第3位:「愛を読むひと」
(監督:スティーヴン・ダルドリー/出演:ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ)
第4位:「チェンジリング」
(監督:クリント・イーストウッド/出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ)
第5位:「シリアの花嫁」
(監督:エラン・リクリス/出演:ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ)
第6位:「グラン・トリノ」
(監督:クリント・イーストウッド/出演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン)
第7位:「チェイサー」
(監督:ナ・ホンジン/出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ)
第8位:「ダイアナの選択」
(監督:ヴァディム・パールマン/出演:ユア:サーマン、エヴァン・レイチェル・ウッド)
第9位:「ダウト ~あるカトリック学校で~」
(監督:ジョン・パトリック・シャンリー/出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン)
第10位:「THIS IS ENGLAND」
(監督:シェーン・メドウス/出演:トーマス・ターグーズ、スティーヴン・グレアム)
【外国映画・総括】
・昨年、「ノーカントリー」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」などといった現代悪を反映させた非娯楽作品がアカデミー賞を席巻したのは、未だに記憶に新しいところです。しかし、同じく昨年の9月には例のリーマン・ショックが勃発し、世界は未曾有の大不況に突入したのでありました。そんな状況下にアカデミーは慌てたのか、今年の米アカデミー賞はインド人の青年が一途な想いで恋愛を成就させようとする、「スラムドッグ$ミリオネア」という明るく誰でも楽しめる娯楽映画が8部門を独占する快挙を成し遂げました。授賞式で司会のヒュー・ジャックマンとビヨンセが一緒に踊り歌った演出も、必死にアメリカ映画が「不況なんて関係ないさ」ともがいている様で意味深なものを感じました。ですが、ただ明るい映画だけが良しとされるべきではありません。イーストウッド御大をご覧あれ。アカデミーは取らなかったものの、その純情な良心の塊で出来た「グラン・トリノ」と「チェンジリング」は絶対に今年度のキネマ旬報ベスト10で、1・2フィニッシュを飾ることでしょう。艶やかで、やや強烈な恋愛描写も、主人公であるシークレット・レディへの感情移入を否応無く高める後半への布石だと思うと胸が詰まる「愛を読むひと」。タイタニックで一世を風靡したミューズ、ケイト・ウィンスレットは本作で大女優に変貌しました。第1位はフォレスト・バトンならぬ、「ベンジャミン・バトン」と「レスラー」のどちらにするかで、悩みに悩みぬきました。でも最後は、どれだけストーリーに深入りさせてくれて、登場人物を愛しく思わせてくれるか。その意味では、若干ながら「レスラー」に軍配。今年の上半期は、やはりアカデミー賞の影響(?)なのか、まっとうに明るいとまではいきませんが、鑑賞後に心中がスゥッと軽くなるような余韻に襲われる作品ばかりだった気がします。感情面の問題に過ぎないのですが、それだけ外国映画にスクリーンに釘付けにされた、ということでしょう。ただ、ベスト10の下位に行くと何だか真っ黒な作品が点在しているのはご愛嬌として。
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